この照らす日月の下は……
78
ヘリオポリス内部での戦闘の映像は予想以上に大きな反響を呼んだ。
そして、所々に挟まれる地球軍の将官の言葉──もちろん、音声と顔はかこうしてある──にも、だ。
「……キラ……こういうことをするんなら俺にも声をかけろよな」
トールがこう言ってほほを膨らませる。
「ごめん。でも、機密もあるから」
だから外部の人間には触らせることができなかったのだ、とキラは続けた。
「そうかもしれないけどさぁ……映像の編集ぐらいは手伝えたのに」
さらに言葉を続けようとしたトールの後頭部にミリアリアの拳が落ちる。
「ミリィ……」
「馬鹿ね、あなたは。キラ以上のスピードで作れるはずないでしょう? こういうことはスピード勝負なのよ」
彼女の言葉にトールは肩をすくめて見せた。
「第一、トールが作るととんでも映像集になるもの。笑いしかとれないわ」
フレイが脇から口を挟む。それはきっと、去年の学園祭のことを思い出してのことだろう。
「あれは、そういう意図だったからだって」
即座にトールが言い返す。
「どちらにしろ機密が関わってくるんだ。あまりキラを困らせないようにしないと」
サイがそういて締めくくる。
「ちぇっ……キラにだけ負担をかけないようにって思っただけなのに」
「なら、別の方法から攻めないと。二番煎じはインパクトが弱いぞ」
「それもそうか。でも、何ができるかな」
サイがこんなことを言い出すとは、彼もかなり鬱憤がたまっていたのかもしれない。
「そういえば他の皆はちゃんと家族と合流できているのかしら」
フレイがそう言いながら首をかしげた。
「……死亡者が出ていないご家族は合流できているって」
モルゲンレーテの職員の中にはあの戦闘で命を落とした者もいる。他にも避難ポットがヘリオポリスの破片で破壊されてしまったと例もあるそうだ。
もっとも、そのあたりは皆に知らせなくてもいいだろうとキラは思う。
「そう……やっぱり、戦争って必要ないわよね」
フレイがそうつぶやく。
「そうよね。そうすれば被害者は減るわ」
ミリアリアもそう言ってうなずく。
同じ考えの人は多いはずだ。
ただ、それを表に出せない人間が大勢いるだけで。
「匿名で本音を吐き出せる場所があればいいのかな」
「……動物好きって地球連合にも多いよね。避難できない動物がたくさんいたって情報を流してみようよ」
それはそれで動物愛護団体を刺激しそうな気がする。
「確かに、それはいいかも。ユニウスセブンの時もかなり問題になってたらしいよ」
「……子供が泣いている映像って言うのもインパクトありそうよね」
こういうアイデアが次々と出てくるのは、カナードの悪い影響を受けたからなのか。それともとキラは首をかしげる。
どちらにしろ、今までため込んだ感情を発散する場は必要だろう。まずい状況になれば誰かがストップをかけてくれるはずだ。そう判断をして、好きに意見を交わすことにした。
あきれたようなカナードが「お茶の時間だ」と言って割り込んでくるのは、それから三十分後のことだった。
「なかなかに参考になったの」
そう言ってミナが笑う。どうやらあのガス抜きの様子はしっかりと見られていたらしい。
「ギナが喜々として動いておる」
それはそれで怖いような気がしてならない。
「大丈夫でしょうか」
「心配いらぬ。ばれるようなまねはすまい」
そういうことが得意だからな、と彼女は笑い声を漏らす。
「それよりも、だ。あの子達の家族の居場所がわかったぞ」
「本当ですか!」
「あぁ。すぐにでも連絡を取れるように手配しておる。皆に知らせてくるがよい」
「はい!」
皆、喜ぶだろう。そう思うといてもたってもいられない。そのままキラは腰を浮かせる。
「行ってきます」
そのままキラは駆け出す。
「転ばぬようにの」
からかうような声が背中を追いかけてくる。
「大丈夫です」
そう返すとキラは通路へと出た。居住区間内は普通に重力がある。だから、その勢いのまま友人達がいるであろう部屋まで一気に駆け抜けた。
「皆、いる?」
そう声をかけながら、キラはドアを開ける。
「どうしたの、キラ」
真っ先にミリアリアが声をかけてきた。その声音にあきれの色がにじんでいたのをキラは無視する。
「皆のご家族の居場所がわかったって。今、連絡を取れるように調整中って聞いたから、教えに来たの」
キラが言い終わった瞬間、室内に歓声が上がった。
「本当?」
「よかった……」
「やっと会える」
サイトトール、ミリアリアはそう言って喜んでいる。だが、フレイだけはどこか不満そうだ。
「パパが無事なのはわかってたし、おじさま達がご無事なのはうれしいけど……そうしたらキラと離れなきゃないのよね」
どうせ、パパはすぐにお仕事に戻るんだし……と彼女はため息をつく。
「それなら私と一緒に来ればいい。本土だから父君とはいつでも会えるぞ」
キラとも連絡が取れるしな、とカガリが笑いながら近づいてきた。
「カガリ」
「その方がキラも安心だろう?」
彼女はそう言いながら視線をキラへと向ける。
「いいの?」
「かまわないさ」
「なら、そうしてもらえると安心できる」
一人で暮らすとか大西洋連合に戻るよりは、とキラもうなずく。
「フレイもかまわない?」
「迷惑にならないなら、お願いしたいわ」
少し考えた後に彼女はそう言った。どこかほっとしたような色が見えるのはキラの錯覚ではないだろう。
「じゃ、決まりだな」
カガリがそう言って笑う。
「通信は明日の午後になる。順番になるからそれまでに準備しておいてくれ」
カガリの言葉に皆ようやく素直に喜びを表情に出していた。